行持 下(13)

真丹(シンタン)第二祖、太祖正宗普覚大師(タイソ ショウシュウ フガク ダイシ)は、神鬼(ジンキ)ともに嚮慕(キョウボ)す、道俗おなじく尊重(ソンジュウ)せし高徳の祖なり、曠達(コウタツ)の士なり。伊洛(イラク)に久居(キュウキョ)して群書を博覧す。くにのまれなりとするところ、人のあひがたきなり。

中国の第二祖、太祖正宗普覚大師、神光慧可(シンコウ エカ)は、神と鬼に慕われ、出家者と在家者から尊重された高徳の祖師であり、心の広い人物でした。伊洛に久しく住んで、さまざまな書物を学びました。この国でも希な優れた人物であり、会い難き人でした。

法高徳重のゆゑに、神物倏見(ジンモツ シュクケン)して、祖にかたりていふ、
「将
(マサ)に受果(ジュカ)を欲(オモ)はば、何ぞ此(ココ)に滞(トドコオ)るや。大道遠きに匪(アラ)ず、汝其れ南へゆくべし。」

仏法に優れ人徳に優れた人なので、ある日 神がにわかに現れて慧可に言いました。
「仏法の悟りを求めているのなら、どうしてここに居るのですか。大道は遠方ではありません。あなたは南へ行きなさい。」

あくる日、にわかに頭痛すること刺がごとし。其師(ソノシ)洛陽龍門(ラクヨウ リュウモン)香山宝静禅師(コウザン ホウジョウ ゼンジ)、これを治せんとするときに、空中に声有りて曰く、
「此れは乃ち骨を換ふるなり、常の痛みに非ず。」

慧可は次の日、にわかに刺すような頭痛がしました。師の洛陽竜門の香山宝静禅師が、これを治そうとすると、空中から声がしました。
「これは骨を換えているのです。普通の痛みではありません。」

祖、遂に見神(ジンケン)の事を以て、師に白(モウ)す。師、其の頂骨(チョウコツ)を視るに、即ち五峰の秀出せるが如し。乃ち曰く、
「汝が相、吉祥
(キチジョウ)なり、当に所証(ショショウ)有るべし。神の汝 南へゆけといふは、斯(ソ)れ則ち少林寺の達磨大士(ダルマ ダイシ)、必ず汝が師なり。」

そこで慧可は、前日 神に会ったことを師に話しました。師がその頭の骨を見てみると、それは五つの峰が秀でているようでした。そこで師は言いました。
「お前には吉祥の相が現れている。きっと悟る所があろう。神がお前に南へ行けと言ったということは、少林寺の達磨大師が、きっとお前の師に違いない。」

この教(オシエ)をききて、祖すなはち少室峰(ショウシツホウ)に参ず。神(ジン)はみづからの久遠修道(クオン シュドウ)の守道神(シュドウジン)なり。

この教えを聞いて、慧可は少室峰の達磨大師の所へ行きました。その時の神は、慧可自身の、永遠の修行の守り神でした。

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