帰依三宝(8)

(きえ さんぼう)

  「爾(ソ)の時に、衆中(シュチュウ)に盲龍女(モウリュウニョ)有り。口中(コウチュウ)膖爛(フラン)して、諸(モロモロ)の雑蟲(ゾウチュウ)満てり。

  「その時に、人々の中に盲目の竜女がいて、口の中は腫れ爛れて多くの虫で満ち溢れていた。

(カタチ)屎尿(シニョウ)の如く、乃至(ナイシ)穢悪(ワイアク)なること、猶(ナホ)婦人の根中(コンチュウ)の不浄の若(ゴト)し。

その有り様は屎尿のようであり、また醜悪なこと婦人の局所の中の不浄のようであった。

臊臭(ソウシュウ)看難(ミガタ)し、種々に噬食(ゼイジキ)せられて、膿血(ノウケツ)流出(ルシュツ)す。

その生臭さは人の目を背けさせるものであり、そこには様々な虫が食らいつき、膿や血が流れ出ていた。

一切の身分(シンブン)に、常に蚊虻(ブンモウ)諸の悪しき毒蠅(ドクヨウ)に唼食(ソウジキ)せらるる有りて、身体の臭処(シュウショ)、見聞(ケンモン)す可(ベ)きこと難(カタ)し。

全身を常に蚊や虻や多くの悪しき毒蠅がすすっていて、身体の臭さは経験し難いものであった。

爾の時に世尊、大悲心を以て、彼(カ)の龍婦(リュウフ)の眼 盲(メシ)ひ困苦(コンク)すること是(カク)の如くなるを見たまひて、問うて言(ノタマ)はく、

その時に世尊は、大慈大悲の心で、この竜女の眼が見えず困苦している姿をご覧になり、竜女に尋ねた。

「妹 何の縁の故にか此(コ)の悪身を得たる。過去世に於て、曾(カツ)て何の業(ゴウ)をか為(ナ)せし。」

「妹よ、何が原因でこのような悪い身体になってしまったのか。一体過去の世で何をしてきたのか。」

龍婦答へて言(イ)はく、
「世尊、我今 此の身、衆苦
(シュク)逼迫(ヒッパク)して、暫時も停(トド)まること無し。設(モ)し復(マタ)言はんと欲(オモ)ふも、而(シカ)も説くこと能(アタ)はず。

竜女は答えた。
「世尊よ、私の身体は今、多くの苦に迫られて一時も休まることがありません。ですから、話そうと思ってもよく話すことが出来ません。

我 過去三十六億を念(オモ)ふに、百千年に於て、悪龍の中に是(カク)の如くの苦を受け、乃至 日夜 刹那(セツナ)も停(ヤ)まざりき。

私の過去三十六億年を思うと、百千年のあいだ悪竜の中に生まれて、このような苦を受け続け日夜瞬時も休むことがありませんでした。

我 往昔(オウジャク)九十一劫(コウ)を為(オモ)へば、毗婆尸仏(ビバシブツ)の法の中に於て、比丘尼(ビクニ)と作(ナ)る。欲事を思念すること、酔人よりも過ぎたり。

又、私の九十一劫の昔を思えば、毘婆尸仏の法の中で比丘尼(尼僧)となりました。しかし、いつも欲事(情欲)を思って、酒を好む酔人に過ぎるものがありました。

復 出家すと雖(イヘド)も、如法(ニョホウ)なること能(アタ)はず、伽藍(ガラン)の内に於て、牀褥(ジョウジョク)を敷施(フセ)して、数々(シバシバ)非梵行(ヒボンギョウ)の事を犯し、以て欲心を快くし、大楽受を生ず。或(アルイ)は他(ヒト)の物を貪求(トング)し、多く信施(シンセ)を受く。

そして出家したけれども、出家の法を守ることが出来ず、僧院の中に敷物を敷いてしばしば非梵行(情交)を行い、欲心を満たして大いに楽しんでいました。また他人の物を貪り求めては、多くの信者の施物を受けていたのです。

是の如くなるを以ての故に、九十一劫に於て、常に天人(テンニン)の身を受くることを得ず。恆(ツネ)に三悪道にして、諸の焼煮(ショウシャ)を受く。

このような訳で、九十一劫の間、常に天上界や人間界に生まれることが出来ず、常に三悪道(地獄道 餓鬼道 畜生道)に生まれて、身を焼かれたり煮られたりという多くの苦を受けてきました。

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