帰依三宝(9)

(きえ さんぼう)

仏 又問ふて言(ノタマ)はく、
「若
(モ)し是(カク)の如くならば、此(コ)の中の劫(コウ)尽きんに、妹(イモ)(イズ)れの処にか生ぜん。」

仏は又、竜女に尋ねた。
「それならば、三悪道(地獄、餓鬼、畜生)の中の九十一劫が尽きれば、あなたは何処へ生まれると思いますか。」

龍婦(リュウフ)答へて言(イ)はく、
「我 過去の業力
(ゴウリキ)の因縁(インネン)を以て、余(ヨ)の世界に生ずべし。彼(カ)の劫 尽くる時、悪業(アクゴウ)の風吹いて、還(マ)た来って此(ココ)に生ぜん。」

竜女は答えた。
「私は、過去の業力(善悪行の因果の力)によって他の世界に生まれることでしょう。またその劫の尽きる時には、自らの悪業(悪行の因果)の風が吹いて、また三悪道に生まれることでしょう。」

時に彼の龍婦、此の語を説き已(オワ)りて、是の如くの言(ゴン)を作(ナ)さく、
「大悲世尊、願はくは我を救済
(グサイ)したまへ、願はくは我を救済したまへ。」

竜女はこう答えると、更に懇願して言った。
「大慈大悲の世尊よ、どうか私をお救いくださいませ、どうか私をお救いくださいませ。」

(ソ)の時に世尊、手を以て水を掬(スク)ひ、龍女に告げて言(ノタマ)はく、
「此の水を名づけて瞋陀留脂薬和
(シンダルシヤクワ)と為す。我今 誠実に言を発して汝に語(ツ)げん。

そこで世尊は、手で水を掬って竜女に言われた。
「この水はシンダルシヤクワという。私は今ここで真実の言葉を語ろう。

我 往昔(オウジャク)に於て、鴿(ハト)を救はんが為の故に、身命(シンミョウ)を棄捨(キシャ)し、終(ツヒ)に疑念して慳惜(ケンジャク)の心を起こさざりき。此の言 若し実ならば、汝が悪患、悉(コトゴト)く皆除き瘥(イ)えしむべし。」

私は昔、鳩を救うために身命を捨てたが、最後まで疑念で身命を惜しむ心を起こすことはなかった。この言葉がもし真実ならば、お前の悪業による苦患はすべて除かれ癒されるであろう。」

時に仏世尊、口を以て水を含み、彼の盲龍婦女(モウリュウブニョ)の身に灑(ソソ)ぎたまふに、一切の悪患臭処 皆瘥えたり。

そう言って仏は口に水を含み、その盲目の竜女の身体に注ぐと、すべての苦患や臭いは皆癒えたのである。

既に瘥ゆることを得已りて、是の如くの説を作して言(イ)はく、
「我今 仏に於て、三帰を受けんことを乞ふ。」

竜女は苦患が癒えると次のように言った。
「私は今、仏に従って三帰(仏陀、仏法、僧団への帰依)を受けたいと思います。」

是の時に世尊、即ち龍女の為に三帰依を授けたまへり。」

そこで世尊は竜女のために三帰依を授けられた。

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