三時業(5)

猟師 危忙(キボウ)し、驚きて所以(ユエ)を問う。樵人 恥愧(チキ)して、具(ツブサ)に委曲(イキョク)を述ぶ。是の二の猟師、樵人を責めて曰く、

それを見て猟師は恐れ驚き、樵にその訳を尋ねました。樵は恥じて、具さに経緯を話しました。二人の猟師は樵を責めて言いました。

「他(カレ)既に汝に於いて此の大恩有り、汝今何ぞ斯の悪逆を行ずるに忍びんや、怪しき哉、汝が身何ぞ糜爛(ビラン)せざる。」

「羆に、お前はそのような大恩があるなら、お前は今どうしてこのような悪逆をすることが出来たのか。お前の身体がただれ腐らないのが不思議だ。」

是に於いて猟師共に其の肉を僧伽藍(ソウギャラン)に施す。時に僧の上座(ジョウザ)、妙願智(ミョウガンチ)を得たる、即時に入定(ニュウジョウ)し、是 何の肉なるかを観ずるに、即ち是一切衆生の与(タメ)に利楽を作す者、大菩薩の肉なりと知りぬ。

そこで猟師二人は、その肉を僧衆の住む寺院に捨てました。その時、僧の長老で神通力を得た者が禅定に入り、これが何の肉であるかを観察すると、これは一切衆生の為に利益と楽しみを与える大菩薩の肉であると知りました。

即時に出定して、此の事を以て衆に白(モウ)す。衆聴きて驚嘆し、共に香薪(コウシン)を取って其の肉を焚焼(フンショウ)し、其の余骨を収めて窣堵婆(ソトバ)を起てて、礼拝供養(ライハイ クヨウ)せり。

そこで長老は禅定から出て、この事を僧衆に話しました。衆はそれを聞いて驚嘆し、皆で香りのよい薪を集めてその肉を火葬し、残った骨を収めて塔を建てて礼拝供養しました。

是の如きの悪業(アクゴウ)は相続を待って、或いは相続に度(ワタ)りて、方(マサ)に其の果を受く。かくのごとくなるを、悪業の順現法受業となづく。

このような悪業(悪しき行い)は、現世に因果の相続を待って、或いは因果の相続を現世にわたって、その果報を受けるのです。これを悪業の順現法受業と言います。

おほよそ恩をえては、報をこころざすべし。他に恩しては、報を求ることなかれ。いまも恩ある人を逆害をくはへんとせん、その悪業、必ずうくべきなり。

およそ恩を受けたなら、恩に報いるよう志しなさい。他に恩を施しても、報いを求めてはいけません。今でも恩ある人に害を加えれば、その悪業の報いは必ず受けるものなのです。

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