四禅比丘(3)

(しぜんびく)

優婆毱多(ウバキクタ)の弟子の中に、一比丘(イチ ビク)有り。信心もて出家(シュッケ)し、四禅を獲得(カクトク)して、四果(シカ)と謂(オモ)へり。

優婆毱多の弟子の中に、信心で出家し、四禅(四つの禅定)を獲得して四果(四つの聖者の悟り)を得たと思った一人の比丘(出家)がいた。

毱多(キクタ)方便(ホウベン)して他処に往(ユ)かしむ。路(ミチ)に於て群賊(グンゾク)を化作(ケサ)し、復(マタ)五百の賈客(コカク)を化作(ケサ)す。賊、賈客を劫(オビヤ)かし、殺害狼藉(セツガイ ロウゼキ)せり。

そこで師の毱多は、方便してその比丘を他所に行かせて、道に多くの賊を出現させ、又 五百人の商人を出現させた。その盗賊たちは商人たちを脅し、殺害 狼藉をはたらいた。

比丘 見て怖れを生じ、即便(スナハ)ち自ら念(オモ)へらく、「我は羅漢(ラカン)に非(アラ)ず、応(マサ)に是れ第三果なるべし。」

比丘はそれを見て恐れおののき、すぐに自ら思うに、「私は阿羅漢(一切の煩悩を滅ぼした聖者)ではない。おそらく第三果の阿那含(欲望の誘惑を断った聖者)であろう。」と。

賈客 亡(ニ)げて後、長者の女有り、比丘に語(ツ)げて言はく、「唯(タダ)願はくは大徳(ダイトク)、我と共に去るべし。」
比丘 答へて言はく、「仏は我と女人
(ニョニン)と行くことを許したまはず。」
女 言はく、「我 大徳を望んで而
(シカ)も其の後(アト)に随はん。」
比丘 憐愍
(レンミン)して相ひ望んで行く。

商人が逃げた後、比丘に長者の娘が話しかけてきた。「お坊様、どうかお願いがございます。私と一緒に行ってくださいませんでしょうか。」
比丘は答えて、「仏は私と女人とが一緒に行くことを許されておりません。」
娘の言うには、「それでは、私はお坊様を遠くに眺めて、その後ろに付いていきます。」と。
比丘は娘を哀れに思い、互いに遠くに眺めあって行った。

尊者 次に復 大河(タイガ)を変作(ヘンサ)せり。
女人 言はく、「大徳、共に我と渡るべし。」
比丘は下流に在
(ア)り、女は上流に在り。女 便(スナハ)ち水に堕ち、白(モウ)して言はく、「大徳 我を済(スク)ふべし。」

毱多尊者は次に大河を出現させた。
娘は言った、「お坊様、私と一緒に川を渡りましょう。」
比丘は下流にいて、娘は上流にいた。娘は水に堕ちて言った、「お坊様、私を助けてください。」

(ソ)の時に比丘、手接して出す。細滑(サイカツ)の想(オモヒ)を生じて愛欲の心を起せり。即便(スナハ)ち自ら阿那含(アナゴン)に非ずと知る。

その時に比丘は、手を出して助け上げると、娘の滑らかな肌に引かれて愛欲の心を起こし、すぐに自分は阿那含の聖者ではないと知った。

(コ)の女人に於て、極めて愛著(アイジャク)を生じ、将(ヒキ)いて屏処(ヘイショ)に向かひて共に交通せんと欲(オモ)ふ。方(マサ)に是れ師なるを見て、大慚愧(ダイザンギ)を生じ、低頭(テイヅ)して立つ。

そしてこの娘に非常な愛着の心を起こして、物陰につれて行って交わりを迫ると、そこではじめて師であることを知り、大いに慙愧して頭を下げて立ちつくした。

尊者 語(カタ)りて言はく、「汝 昔(ムカシ)自ら是れ阿羅漢なりと謂へり。云何(イカン)が此(カ)くの如きの悪事を為さんと欲(ホッ)するや。」
(ヒキ)ゐて僧中に至り、其れをして懺悔(サンゲ)せしめ、為に法要を説きて、阿羅漢を得しむ。

毱多尊者は言った、「お前は以前、自分は阿羅漢であると思っていた。それなのに、どうしてこのような悪事をしようとするのか。」
そこで尊者は、比丘を僧団の中につれて行き、懺悔させて法要を説き聞かせ、阿羅漢を得させた。

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